朝日町知恵の蔵7月訪問
更新日:2019年12月3日
7月の思い出サロンの実施に合わせて、私(山下:北海道大学総合博物館)も2度目の朝日町訪問となりました。今回のサロンは、昔日の「米づくり」をテーマに、名寄市北国博物館所蔵の記録映像『稲物語』を知恵の蔵運営委員会(朝日町郷土資料室)の皆さんと一緒に見てお話しをする企画です。 『稲物語』は朝日町近傍の風連町歴史民俗資料館運営協議会が昭和30年代の稲作を再現し、ビデオで記録に残した約45分の映像です。映像は軽快なクラシックの旋律とともにタイトルバックが挿入され、雪に覆われる雑木林のカットから始まります。男性のナレーションで「この稲物語は風連町の基幹産業である水田農業について昭和30年代の農作業形態を後世に残し、土に親しみながら人馬一体となった当時の農業をしのぶことを目的に作成されました。」と吹き込まれています。VHSのラベルを見ると平成4(1992)年頃の制作と考えられます。 さてサロンは、青柳学芸員(北海道博物館)のパワーポイントを使った解説とファシリテーションで進行し、『稲物語』の映像クリップを挟みつつ進行します。映像を見て、参加されている知恵の蔵のメンバーが楽しそうに昔の農作業の様子や自分たちの体験を語られます。こうした様子もビデオカメラで記録させていただきました。農具などのモノ資料は残っても、土地固有の農作業のやり方や道具の使い方、考え方は少しずつ異なり、こうしたメンバーの語りにちりばめられた情報がその土地の固有性を明らかにしてくれるように思われます。
当日午前中に撮影した士別市内の水田の写真を投影してサロンがはじまりました
モニター(写真手前)に映された『稲物語』をメンバーの皆さんと一緒に視聴します
映像を見終わった後には、知恵の蔵に収蔵されている稲刈り鎌(岩田式改良鎌など)を持ち出して、メンバーに実演していただきながら使い方を確認します。同じ改良鎌でも実際の農作業によく使われたものなのか、あまり使われなかったものなのか、などを教えていただくことができます。「これは実は作業効率がよくないんだよね」などと生き生きとお話していただきます。柄の部分などを見ると、なるほどあまり使い込まれた形跡はないようです。改良農具もさまざまに考案されたものの、全てが使えるものではなかったようです。2時間程度のサロンはあっという間に終わりの時間を迎えました。
映像に関連する改良鎌を収蔵展示棚から取り出して使用しながらサロンを進めます
この晩は、かつての馬を扱う仕事のコミュニティである初午会(はつうまかい)のメンバーと一緒に焼き鳥に舌鼓をうちながら、さらに朝日町の今昔を聞くことができました。みなさん、驚くような御歳ですが大変な健啖家であり、お酒もよく飲まれます。焼き鳥の隠れた(?)名店は、宿泊もできる朝日地域交流施設「和が舎」の近くにあります。朝日町訪問の際にはおすすめします。
翌日は、知恵の蔵メンバーの坂本さんの案内で、同じくメンバーの松ケ平さんの工房を訪問しました。松ケ平さんは木遣り(丸太などを動かす)などに用いる鳶(口)の柄を制作されている方です。秘密基地のような工房には、加工用の旋盤などの大型機械、多種多様なノミなどの道具、独自に開発した治具や柄の材料などがあちこちに置かれており、道具好きには目移りするほどです。一通り松ケ平さんに案内頂いた後は、ストーブの前に座りお茶を飲みつつ、工房を眺めまわしながら目に留まったものをたずねます。さまざまな木製玩具も作られていて、これはうまくできた。これはうまくいかなかった、などとお話してくださいます。私たちにはどれも素晴らしい出来に見えますが、どこがうまくいかなかったか聞くとなるほどと納得できます。奥様も加わって茶飲み話を続けていると、松ケ平さんが道外に働きに出ているときは、奥様のもとに鳶口の柄の修理依頼が来たとかいう話も。奥様も作業を手伝っていたので、見よう見真似で直してあげた、などと楽しそうにお話されます。
松ケ平さんの工房
鳶口
松ケ平さん作成のつまようじ器
知恵の蔵メンバーの坂本さん(左)と松ケ平さん(右)
朝日町は雪深い環境であり、私たちには容易に想像できない暮らしの厳しさもあったと思います。にもかかわらず昔のことを楽しそうに語られる皆さんの姿が強く印象に残ります。土地固有の知識や知恵を在地の知などと呼んだりしますが、朝日町の知恵の蔵には仕事や生活、そして楽しく生きることの知恵が蓄えられているように思います。
私たちの研究や教材開発でもこの部分を大事に学びながら進めたいと考えています。
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