智恵文の歴史再発見: 優れた馬を生産する
自動車やエンジン付きの農機具がない頃は、人々は馬の背中に乗ったり、馬を使って農地を耕したり、重い荷物を運んだりしてきました。名寄市智恵文では、昭和初期、国の政策を受け、また熱心な優良馬の生産者がいたことから、軍馬の生産が盛んになります。馬の生産や種牡馬育成の事業家として有名だった、故清水 清さん(1904年生まれ)によると、最盛期には、上川管内で買い上げられた軍馬50頭のうち、20頭までが智恵文産で、その中には特級馬が5頭もいたそうです。智恵文は優良馬を生産する「馬産地」でした。
こうした歴史をふまえて、智恵文では、2018年から馬をテーマの1つとして、地域学習会(智恵文中央老人クラブ・北海道博物館青柳共催、以下学習会)を開始しました。学習会には、清水 清さんと交流があったメンバーも多く参加し、軍馬出征時の愛馬との別れ、よい馬の特徴、馬の共進会(産業振興のための品評会)、そして馬を使った農作業等々、経験と記憶とを分かち合い、参加した小学生へと伝えました(写真1)。馬が好きだった祖母から教えられたという、「(栄養があって馬にやるとよい)米のとぎ汁はなげる(捨てる)な」、「家畜を粗末にする家は栄えない」は、この時に話題に出た、印象的な言葉です。
写真1 高齢者と小学生が交流した学習会(2018年11月)
2018-19年、私(青柳、北海道博物館)は、「清水 清さんから教えを受けた弟子であった」という、門馬 発(ひらく)さんの牧場(名寄市智恵文智西)を訪問しました(写真2)。
この牧場では、ばんえい競走馬となる、「日本輓系(ばんけい)種」を生産しています。
馬小屋には、馬を制御するための道具、「鼻ねじり」がありました。この道具は、木製の棒と、輪にした紐からなり、紐の部分で馬の鼻先をねじるようにして使います。鼻ねじりを使って馬をおとなしくさせる時は、通常二人がかりですが、門馬さんは一人で使うことができる、大きな鼻ねじりも、工夫して手作りしています。
写真2 門馬 発さん(手にしているのは、馬を制御するための「鼻ねじり」)
2018年の訪問時、この牧場には4頭の馬がいました。門馬家では、明治後期の北海道移住以来、農耕馬として、収穫物や冬山造材での木材運搬のため、そして、ばんえい競走馬としてなど、時代とともにその飼育・生産の目的を変えながら、馬を継続して飼育してきました。「うま(馬)く(九)いく」の言葉にかけて、馬をかつて最大9頭飼育したこともあったそうです。門馬牧場では、生産した馬が、ばんえい競馬「黒ユリ賞」のレースで第1着を受賞したご経験もあります。
その年に生まれた仔馬は、毛がふわふわしており、人なつこく、母子が連れだって放牧場の柵のすぐ近くまで寄ってきました(写真3)。私は初めて馬を身近に見ましたが、その大きさに驚き、仔馬の愛らしい姿に目が釘付けとなりました。2019年春には新しい仔馬が生まれ(写真4)、母馬の交配も行われました。
写真3 放牧地での馬の母子(2018年11月)
写真4 馬の母子(2019年4月、手前は生後2週間の仔馬)
このように智恵文では、現在も馬の生産が引き継がれています。牧場見学の様子は動画撮影させていただき、2019年度の学習会と小学校への出前授業で紹介し、地域資源をわかりやすく学べる教材として活用することができました。
さて2020年度から、この学習会は智恵文公民館との3者共催による「ちえぶん学講座」としてリニューアルします。今後も住民の皆様と智恵文の身近な地域資源の魅力を再発見していきます。是非ご参加ください。
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